『リップヴァンウィンクルの花嫁』
岩井俊二監督、12年振りの邦画新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』を見てきました。
公式サイト→ http://rvw-bride.com/sp/
出演は、黒木華、綾野剛、Cocco、など。
その他詳細は公式サイトで確認していただくとして、この記事では、ごくごく個人的な感想を綴りたいと思います。
ネタバレ云々というよりは、この映画をすでに見た方向けの内容になりそうです。
私は岩井俊二の映画が好きです。多感な10代の時期に流行って、大きな影響を受けました。特に好きなのは、10代の少年少女が主軸となっている作品です。
それらの岩井作品を見ると、心が10代の頃に引き戻されてしまうようで、何度見ても胸が締めつけられます。
そういった作品群に比べると、今作は大人の女性が主人公。ネットで彼氏を見つけたり、結婚したり、怪しげななんでも屋と関わったり…と、予告を見た時はすこし意外な気もしました。
ただ、岩井的映像美だったり、リアリティのある人物描写、抑えた心情表現などは健在で、3時間という大長編にも関わらず、隙のない豊かな映画体験となりました。
物語後半、舞台を都市部から郊外の洋館に移してからは、ビジュアル的にも、夢のような、現実感を欠いた様相を呈し、「こういうちょっとマンガっぽいところ!」が岩井作品の真骨頂だな、と思いました。
登場人物が大人ばかりの今作を見て、あらためて気づいたことは、「岩井作品にはいい人間は出てこない」ということです。
静かに、弱く、ずるく、壊れた人々ばかりが出てきます。
少年少女主体の作品の場合は、この弱さやずるさが思春期特有の甘苦さを視聴者に喚起させ、「あーん。」となるのですが、大人主体の物語では、この弱さ・ずるさには、甘さなど一切なく、辛く、痛々しく、なんならいっそ滑稽でした。
今作で私は、岩井監督の中に冷ややかな人間観察の視点とシニカルさをいつになくハッキリと感じました。
「あ、岩井さんて、思ったより性格悪いんだな!」と。(褒めてます)
そして、そんな大人の弱さ・ずるさを一番感じたのが主人公ななみに対してでした。
物語は彼女の視点で進みます。
彼女は映画の中で、とても辛い目に遭い、それまでの自分の生活からは想像もつかない世界観へと巻き込まれていきます。
不思議のアリス的被害者、とでもいいましょうか?
彼女はそこで、それまで知らなかった、とてもきれいなものも、とても優しいものも、とても醜いものも、とても残酷なものも目にしたでしょう。
が
し
か
し、
結果的に、彼女はなにか変わったでしょうか?
流されて結婚、無理やり離婚、そして洋館のメイドへ。なにひとつ彼女は自分で掴み取っていないし、荒波に抗うこともしません。
そうして精神的・社会的に満身創痍になりながらも、一方で彼女は通信制家庭教師の仕事を淡々と続けています。
こいつ、案外タフだよな?
と私は思わずにいられないのです。
挙句、自分のことをあれほど大切にしてくれた真白さんのために、彼女は最後まで脱ぎません。
この脱がないというのは、文字通りの意味だけでなく、人間的に裸にならないということです。
人は、相手のためだったり、状況のせいだったりで、鎧を脱ぎ捨てて裸になることがあります。
裸?ばかりか、時には自分の内臓さえ素手で掴み出して血が滴るままに「愛ですマジです」と差し出します。
ですが、この主人公ななみは、脱がない。
どんなに過酷な状況にあっても、変わり果てることはないのです。
結果的に私は、彼女のことをずるくて薄情な人間だと思いました。
そのこと自体は、映画の評価となんら関わりありません。
というか、そここそがこの映画の一番興味深い点だと、私には思えます。
そして最後に彼女は、彼女にとって住みよさそうな、爽やかな風の吹き抜ける部屋に辿り着きます。
そして、日に翳すように左手の薬指を眩しげに見つめます。きっと「夫」のことを思い出しているのでしょう。
甘く、苦く、もう「終わったこと」として。
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